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2020年5月22日ニュース
ファミリービジネス関連の書籍を紹介する「J.P.通信」でEps.16 加来 耕三著『家康はなぜ、秀忠を後継者にしたのか 一族を繁栄に導く事業承継の叡智』を投稿しました。
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時間の経過と共に、私たち個人レベルひいては組織レベルでの問題も明確になってきました。私個人、ステイホーム期間の中、今までの当たり前が「有り難さ」に変わっていくのを感じています。周りの人たちの支えがあることへの感謝の気持ちを忘れず、日々を少しでも豊かに過ごしていきたいと願っています。
今回ご紹介する著書は、日本史に長けた作家による、歴史から学ぶ「事業承継のあり方」について記したものです。歴史上で「成功例」と「失敗例」を分けたものは何だったのか。著者である加来耕三さん選りすぐりのエピソードを通して考察した1冊です。
私個人、細川家の事業承継のエピソードには考えさせられるものがありました。「家族の事業承継」についての先人たちの智略の数々、是非ご一読下さい。
J.P.
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「 家康はなぜ、秀忠を後継者にしたのか 一族を繁栄に導く事業承継の叡智 」
加来 耕三 著
「もっと早くに、手を打っておけばよかったものを・・・」。現代を生きる私たちの誰もが、これに近い後悔を抱いたことはあるだろう。歴史の先人たちも、それは同じだったようだ。著書の中で加来氏は、家族(組織)のトップに立つ人間にとって難しくも重大な使命は、「私情を捨てて、公的に立派な、周囲の認める後継者を選び、育成してのち、座を譲るタイミングを逸しない」ことと述べている。ここでいうタイミングは、つまりは「時勢の力」である。時代の流れと立場を考えた上で、後の代に然るべき教育を施し、場を整え、「絶妙なバトンタッチ」を行えるかが、成功か失敗かの分かれ道となるのである。
「三代つづけば、末代までつづく」とあるが、事業成功の重大な要件は、先に述べた先代の「絶妙なバトンタッチ」に加え、その体制を堅牢なものにする資質を持つ二代目の存在である。例えば、これを現代の1つの家族経営の企業に当てはめて考えてほしい。先代が類い稀な才覚で会社を大きくし、人並み以上の財産を築き、社会的貢献も十分果たした後、自身の死後直系の子供たちの誰かがその後を継ぐ。しかし二代目になって以降売り上げが低迷し、会社が倒産。当然、従業員は働き口を失い、不幸になる。会社家族も例外ではない。結果だけを見れば、二代目には先代ほどの才覚がなかったからという理由で納得するのは簡単かもしれない。しかし、それだけではないのだ。事実生涯現役という幻想にとりつかれ、自身が死んだ後のことへの気配りが足りなかった先代が招いた失敗例は歴史上数多くある。後継者となる者への具体的な配慮・教育を行わなかった結果、二代目で下降線をたどり、最悪三代目までに組織が消滅してしまうのである。それを防ぐために、厳しい時代を生き抜いた先代たちは、時に心を鬼にして事業承継にあたり、自分の評価を下げる行動すら厭わなかった。そしてそれを継ぐ二代目は、先代と競う姿勢を見せず、決して自己弁護をせず、あくまでも偉大な先代を立てる黒子に徹しようと懸命に励むのである。
約300年という長きにわたり、日本人に多大な影響を与え続けた例として加来氏は、徳川秀忠・藤原不比等両二代目を、「まがうことなき日本史史上最強、最大の二代目」と評価している。特に、黒子に徹しきることが出来た秀忠の忍耐力は、徳川幕府による戦の無い平和な日本の実現において無くてはならないものだっただろう。秀忠は常に、父と比べられる中での自身の身の置き方に苦悩していたのかもしれない。もう一方の不比等は、父・家康によって見事な帝王学教育を受けた後二代目となった秀忠とは違い、11歳という若さで父・鎌足を亡くした後事業承継を行ったこともあり、事実上は先代的ポジションとも考えられる。その道程は、時勢の力もありより険しいものだった。ただ不比等は父が見込んだ天性の政治的感覚を持っていた。そして何よりも不比等の父は、後に自分がその手腕を遺憾なく発揮できる大きなきっかけを与えた持統天皇(女帝)の側近中の側近だったのだ。何とも、ドラマチックな話である。いずれにしても両者には、もともとの才覚や環境に差はあれど、自身の立場を冷静に理解し、賢明な判断を下せるという面では、非凡な「才能」の持ち主だったのは間違いない。
「家族」という1つの単位は、今日の情緒的な繋がりを重要視する多様性も影響して、様々な解釈や機能を含むものになった。今この時も、大小含め多くの家族の形が存在し、時勢の力の中でもがき苦しみながら、それぞれの共同体としての形を保とうと努力している。しかし、家族の中で根幹となる考え、言い換えるなら家訓や理念を重視してこの荒波に備えられている家族はどれだけいるだろう。まだまだ世界を取り巻く緊張状態は続き、近い将来新たな生活様式の選択を私たちに迫るだろう。私たちは、自分にとって大切なものを守り切る自信があると言い切れるだろうか。
目の前の恐怖に対して、私たちがその幸せ・将来を守るために何をするべきか。ある意味、今まさに家族のあり方を死ぬほど考えられる最後のチャンスなのかもしれない。親として、子として、果たして自分たちはお互いに必要な時を過ごせていたのか。大事なのは、その考えることを止めないことだ。これが、後悔しないたった1つの方法である。想いを汲むものがいれば、人が繋げてくれる。人の想いが時代を経て繋がっていくという事実は、歴史の記す通りである。自分の幸福にとどまらず、自分以外の誰かの幸福を望む強い想いが、時代が変わろうともきっと繰り返されていくと、私は信じたい。
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