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2019年8月13日ニュース
ファミリービジネス関連の書籍を紹介する「J.P.通信」でEps.6 童門 冬二著『近江商人のビジネス哲学』を投稿しました。
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厳しい暑さが続いております、皆様いかがお過ごしでしょうか。
何かと暗くモヤっとしたニュースが続いています。熱中症には、お互いくれぐれも気を付けましょう。私も少しでも、心を前向きに出来る良書の紹介を続けていこうと、決意を新たにする今日この頃です。
今回のテーマは、「近江商人」。正確には、滋賀県・琵琶湖周辺を拠点とする彼らは、歴史的観点からも大きな影響を与えたその功績が讃えられ、現代に至るまで、多くの経営者たちの手本とされてきました。
当時の彼らは行商用の天秤棒を担いで、必要とあらばどこにでも駆け付け人々に必要な物資を届けていました。と同時に、人里離れた場所に暮らす人々に町の近況を教える、貴重な情報源でもあったのです。ネットの無い時代に生きていた人々にとって、それがどれほど有難いものであったかは、想像に難くありません。
彼らの商いにかける想いは、やがて商店独自の理念となり、ひいては近江商人共通の精神となっていきました。今回ご紹介する本を執筆された童門冬二さんも、近江商人たちの生き方に大きな影響を受けた方の一人です。「彼らに比べれば、自分なんてまだまだ」という謙虚な思いと尊敬の念が、ひしひしと伝わってくる本といえるでしょう。
近年、企業は生き残りを懸けてますますシビアなルールやノルマを従業員に課すようになりました。それが様々な顧客トラブルや、最悪信用問題に関わる事件に発展してしまっているのは、残念でなりません。人間の職業負担を減らすべく機械化と技術進歩が進む反面、私たち人間だから、人間にしか出来ない、人間がやるからこそ意味がある仕事とは何か。そんな根本的な問題に、今まさに頭を抱えている方もいるのではないでしょうか。
そんな真剣な想いを持っている方たちにこそ、是非ご一読いただければと願っております。先人たちの偉業を通して、日本式経営の素晴らしさを再認識していただければ幸いです。
近江商人たちは、戦国時代から現代に至るまで、ある意味歴史を正しく理解する上でも重要な立ち位置でした。彼らの目を通して、歴史上の人物たちを新たな視点で見直すきっかけにもなると信じ、第6回目の投稿とさせていただきます。
J.P.
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『近江商人のビジネス哲学』 童門冬二 著
「商いは、ホトケの代行だ。」江戸初期のお坊さん、鈴木正三の言葉である。
ホトケは、どこか高い所から多くの助けを必要としている人々を見ている。生きていく上で必要な品物や情報が何か、見えているのに、ホトケ自身がそれを人々に届けるわけにはいかない。
だから、商人たちがそのホトケの意思を自身の気持ちと思って人々のところに出向く。まさに代行者である、という意味である。
近江商人の生き方を、作中様々な言い回しを交えて童門氏は語っている。その引用の一言一句に、日本式経営の礎を築いた先人たちへの尊敬の念を感じる。事実、彼らの共通精神である「自利利他公私一如」の考え方は、現代を生きる私たちの見つめ直すべき原点と言える。
これは、本書の後半で語られる「三方よし」と同じだ。要約すれば、「三者にとって利益が得られるビジネスこそが理想的である」という考え方だ。言い換えれば、「自分が利益を得るためには、商売相手にも、そして社会全体にも利益をもたらすようにせねばならない」ということである。
当然ながら、ビジネスは社会奉仕ではない。自身が利益を得る、ということはどうしても無視出来ない。であると同時に、そこには利他の精神があることが不可欠であり、無ければ財を成すことは出来ない。そして両者の間に生まれた利益が第三者、地域や世の中に還元されてこそ、本物なのである。
これは、近江商人の中で言われる「節約」の線引きにも関係している。つまりは、お金の遣い方で商人ないしは人間の価値が決まるということだ。商人は、誰でも無駄な出費を防ぐための節約の努力をしている。大事なのは、それによって得たお金の遣い方なのだ。ただ自分の利益として貯め込むのは「ケチ」、必要だと思う人やものにいざという時に惜しみなく使えるように貯め込むのは「倹約」だと言われる。根本が私心か公心か、自分のためか客のためかである。
このように、近江商人たちには非常にハッキリとしたビジネス哲学がある。その哲学に基づいて彼らが守り続けてきた精神そのものが、各地に拠点を設けることによって、よりその地に根付いたものとして発展を続け、歴史的事業にも大きな影響を及ぼすことになる。それを非常によく表した表現として、作中童門氏が何度も用いる、
「琵琶湖のアユは、外に出て大きく育つ。」
という近江商人の言葉がある。琵琶湖の特産品であるアユを近江商人たちに見立てた表現だが、琵琶湖のアユ、もとい近江商人たちが諸国にもたらした影響力の大きさを暗に表している。
彼らは、消費者目線で物事を捉え、常に世の中のニーズに的確に応えることによって高い評価を得てきた。必要とあらば殿様の正妻に直訴した例もある。長浜で秀吉に楽市楽座の無税制度を復活させた正妻・ねねの話は、知る人ぞ知る有名なエピソードだ。
ねねは、自主性を持って夫の留守中の店を守る、夫と両立した存在である妻としての近江の女性たちの活躍ぶりに大きな感銘を受けていた。だからこそ、その申し出に、責任をもって応えようとした。まさに、近江商人の精神が大きな変化をもたらした瞬間である。
日本には、元来これだけ素晴らしい経営哲学があり、それはかの有名なエズラ・ヴォーゲルやドラッカーも認めている。しかしバブル崩壊をきっかけに、日本経済は従来の経営方法では立ち回らなくなり、アメリカ式のシビアな経営方法が主となっていく中で、本来あるべきビジネスの基本すら見失いつつある。しかし今、日本のビジネスが本来の形を取り戻しつつあるのである。
もちろん、現代にあてはめて日本式経営のすべてがいいと断言できるわけではない。しかし過酷な時代でこそ重要視されてきた精神だからこそ、今私たちが学ぶべきことが多いことも否定できない。これからの日本のビジネスの発展が、より多くの「三方よし」となってくれると信じたいところだ。
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